shiroyann

美術館は問いかける エッセイ

美術館は問いかける

 忘れられない出会いがある。薄暗い小さな部屋で、たった一人で対面したエル・グレコの《受胎告知》。見た瞬間、ああ、というため息がこぼれ、絵と出会うとはこういうことかと知った。  だから、仕事の旅の途中でふと倉敷に寄ろうと思い立ったとき、「あそこには大原美術館がある」と思うだけで心の中にポッと柔らかい光…
『ハムレット(どうしても!)』言葉に埋もれた先に 舞台レビュー

『ハムレット(どうしても!)』言葉に埋もれた先に

2023年4月30日、舞台芸術公園 野外劇場「有度」にて『ハムレット(どうしても!)』を観た。 フランスの劇作家・演出家オリヴィエ・ピィがシェイクスピアの『ハムレット』を解釈し、現代に再掲示する、批評劇とも呼べるような作品だった。 4人の俳優の饒舌な身体を伴って語られるフランス語と、日本人が理解しう…
踊る音を聴く。「MURATA黄昏」レビュー レビュー

踊る音を聴く。「MURATA黄昏」レビュー

2022年最後に観た舞台は、ちょっと、いやかなり変わっていた。 会場は渋谷の裏通りの倉庫を改装した小屋。 そこにあるセットは、手作りの学芸会のような犬小屋とりんごの木や草むらで(どれもチープ感満載) 真ん中のボードの上には、白いタップシューズ。 タップダンサー村田正樹さんのソロ公演「MURATA黄昏…
私の沖縄ノートのきれはしvol.3 [2022年 おばと沖縄復帰] エッセイ

私の沖縄ノートのきれはしvol.3 [2022年 おばと沖縄復帰]

この話は、2021年秋に沖縄に行ったときにおばと会ったあと書いたものです。その後、沖縄タイムス社の「沖縄の生活史」聞き取りプロジェクトに応募し、このときのおばの話をさらに聞きました。(沖縄タイムスにて公開)この記事は、その前の個人的な記録として残しておきたいなあと思っています。 「本土復帰は、世界が…
一つ歳を重ねて エッセイ

一つ歳を重ねて

無事に一つ歳を重ねました。 誕生日が3月だからか、いつも個人的な新年は春分の日あたりなのですが、今年は特に、今月頭からの蕁麻疹に悩まされ、ようやくすっきりしてきたので、なおのこと「新しい年」という感じです。 新しい、といえば、来週は新しい取り組みで沖縄〜京都へ。 沖縄は、沖縄タイムス社の「沖縄の生活…
追いかけたいもの:清水きよしパントマイム「幻の蝶」 レビュー

追いかけたいもの:清水きよしパントマイム「幻の蝶」

舞台の仕事をしている私でも、観劇は日常ではなく、特別な出来事になった。 今年初観劇は、パントマイミスト清水きよしさんのマイム活動55周年記念公演「幻の蝶 Vol.152」。2月5日(土)観世能楽堂。能楽堂でソロでパントマイムを上演する、清水さんのライフワークのような作品だ。 休憩を挟んで8本のオムニ…
私の沖縄ノートのきれはしvol.2 [1980年 父と昭和] エッセイ

私の沖縄ノートのきれはしvol.2 [1980年 父と昭和]

1980年 父と昭和 「お父さんはパスポートを持って日本にきたんだぞ。沖縄はお前が生まれるちょっと前まで、アメリカだったんだぞ。お金はドルだったし、車も右側通行だったんだぞ」 父は、生粋のウチナーンチュである。沖縄本島で戦争中に生まれ、母(私の祖母)に女手一つで育てられ、高校卒業後、集団就職で195…
私の沖縄ノートのきれはしvol.1 [2021年 首里城の御庭の前] エッセイ

私の沖縄ノートのきれはしvol.1 [2021年 首里城の御庭の前]

2021年 首里城の御庭の前 2021年10月、7年ぶりに訪ねた沖縄は、静かだった。那覇の国際通りは、緊急事態宣言が解除されてもまだ休業している飲食店も多く、以前なら数十メートルおきに声をかけてくる客引きや陽気なタクシーの運ちゃんにも(「ワンメーターでも乗っていきなよ」にいつも笑ってしまう)、道端で…
「海をあげる」から渡されたバトン ブックレビュー

「海をあげる」から渡されたバトン

筑摩書房「海をあげる」上間陽子  なんとも優しいタイトルだ。青が基調の装丁、ページをめくるとおだやかな目次がならぶ。ゆとりのある文字組みで、幼い娘さんの微笑ましいエピソードから始まる。そのソフトさからは、ほっこりとおだやかな日常エッセイが始まるように思われるが、私はわずか20ページで涙が止まらなくな…
9月1日のひとりごと エッセイ

9月1日のひとりごと

9月か・・・ため息(笑) SNSにアクセスしても、言葉を失ってしまって、そっと閉じる、の繰り返しでした。夏が終わるから、なんとなく近況です。 緊急事態宣言下での今年の夏は、いろいろ引き裂かれる気持ちの多い月でした。喜多方のフェスになんとか出演できて、岐阜や豊田の公演が、主催者の大いなる努力で実現でき…