言葉の沼に沈む。友部正人ライブ

友部正人さんのライブに行った。

私が尊敬している人が尊敬している、というので、名前だけは存じていたものの、曲をほとんど知らずにいったのだが、言葉の沼にすぷすぷと沈められて帰ってきた。

聴き始めは、なんか普通のフォークだなあと思ったのだ。だけど、だまされた。その世界は3畳間にとどまらず、というか3畳間からいきなり黄泉の国へ飛び、幻想の世界に迷い込み、一曲ごとに異世界へ連れていかれる感じ。

震災後に作った新曲も多かったからなのか、死者との距離が近い。そこで歌われているのは単なる悲しみではない。
友部さんはいたってひょうひょうと、ほとんど話もせず、にこりともせずに歌い続ける。

音楽性が社会性と密接に結びついたフォークソングというスタイルだからこそ、その歌詞の世界に広がる異次元っぷりは際立つ。
短編小説を次から次へと読んでやめられなくなり、自分自身も現実の世界にはいないのではないかと思わせる2時間半。

そして言葉の無駄のなさ。表現の無駄のなさ。全てが整って美しく、これは文学だなと思ったのでした。

飛び入り参加のお二人のミュージシャンも素敵だった。まっすぐで、飾りがなくて、そして友部さんへの敬意がもう、音から溢れ出てて。

胸がいっぱいになりつつも、現実の世界に私ちゃんと戻ってきたかしら?と不穏になるような帰りの電車の中。
全員がマスクとスマホ、という世界もまた、異世界だった。