リメイク

ひとかげ (幻冬舎文庫 よ 2-15)
よしもと ばなな / / 幻冬舎

この小説は過去の作品を書き直したもので、そのおおもとの「とかげ」を私が読んだのは、まだ10代だったのじゃないかなあ。
今古い方を読み返すと、ありえないだろって思う状況設定や、なかなか力技な物語の運び。
だから、それを今の作者が恥ずかしく思って書き直したのはすごくよくわかる。

新しく書き直された「ひとかげ」は、丁寧になって、無理がなくなって、地に足がついている。登場人物の苦悩も、繊細な心の移り変わりも、専門的な下調べも、前作を上回るのだろう。
でも、初めの作品で出来上がってしまった荒々しい文章のテンポ感、勢い、匂いは、丁寧に描かれれば描かれる程薄まってしまう。
あれはあれで成立していたのだ、一つの作品として。
ちゃんと不器用に言いたい事を伝え、もがきながら出て来た作品の輝き。

未熟でも恥ずかしくても、書き直すよりは、それをさらす方がよかったのじゃないのかなあ、と私は思った。
それは、前書きなどで、御本人が懸念していた、ファンにありがちな「作家の初期の頃の作品が好き」というノスタルジーとは全く違う感覚で、やはりあの未熟な成立を貫くべきだったのじゃないかなあ。と。
今の作者を知りたければ、リメイクじゃなくて、新作を読めばいいのだし。
洗練されることが、作品にとっていいとは限らないのだなあ。

リメイクとはかくも難しいものか。
ものを作っていれば誰でも、何度もぶつかる衝動なのかもしれないけど・・・
推敲とリメイクは、やっぱり違う。


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