出会ってしまった

いい靴がほしいなーとずっと思っていたのですが、
靴って、試し履きすればするほど迷うのです。

どこかしら、必ず問題がある。
それをお店の人に伝えると、違う靴を持って来てくれるけど、
そうすると、また違う問題がでる。
かかとだけゆるい、指先はキツい、右足のこの指だけ痛い、甲に当たる、
そのうちよくわかんなくなっちゃって、
別にすごく気になる訳じゃない、なじめば平気なのかもしれない、と
結局デザイン優先で決めちゃう。
インソール入れてみたり、ちょいちょいごまかしながら、
靴に足を合わせて履く。

ずっとそうやって靴とつき合ってきました。
靴底がすり減って、見た目もぼろくなったら捨てて、
でももう同じ商品はどこにも見当たらないから、
またおんなじパターンでちょっと妥協して決めて。

そんな私が先日、仕事で出会った友人に連れられて手作り靴の工房に行きました。
夫婦二人で靴を作っているほんとに小さな工房。

入ったとたんまず目に入るのは、修理にやってきた古い靴たち。
それを見て何だか泣きそうになるのは、
私が捨てて来たたくさんの靴を思い出したからかもしれません。
それらは、職人のもとから履く人の足に旅立ち、また職人の元へ戻ってメンテナンスされ、
また履く人の足へ戻っていくのです。

それだけで感激しながら、試し履きのコーナーへ進むと、
靴のデザインはわずかに数種類、
それに革の種類やサイズやいくつかを選んで、自分だけのものを作ってもらう受注生産です。

まずはインソールから丁寧に大きさを合わせてフィッティング。
そしていくつかの靴を試し履き。

ああ、また来ちゃった、この感覚。
すごくいいけど、ここが気になる。っていうエンドレスなパターン。
1足目、2足目、大好きだけど、ほんのちょっとの違和感がある。

すると、それまで伝えた事を聞いていた店主が、
「これが似合うかも」と出してくれた3足目。
履いたとたんに、「これは私の靴だ」という確かな実感と
「足を守ってくれる」という安心感がぶわーっと体の奥から上がって来て、
涙が出そうになりました。

同時に回りにいたみんなが「似合う!!」と。

出会ってしまった。
呼ばれてしまった。
そんな感じ。

もうね、他の靴は目に入りません。
仲間がそばで選んでいても、目にも入りません。
とにかく、私にはこの靴、もう脱ぎたくない。
帰るまで履いて、歩いたり座ったり立ったりしていても、
どこも、何も気にならない。
そしてすでに、私になじみまくっている。

やっと出会えたそれを、私用に作ってもらうのにかかる時間は半年ちかく。
恋をするように、待つのだなあ。
でも、壊れたら修理に出して、何十年もその靴と、職人さんとつき合って行ける。
そして、私だけの靴の表情にだんだんとなっていく。
その長さにくらべたら、半年なんて短い、でもとてつもなく待ち遠しい。

そうやってモノと出会って、モノとつき合って行く。
そんな生活をしたいと思っていても、現実はぜんぜんそうじゃない。
でも、この靴と出会っただけで、生活が変わりそうな気がしました。
たった一足、出会えただけで、生活の芯が変わる。
本気のモノ作りの力は、すごいのです。

恋をした靴はこちらの工房で。
もちろんインターネットじゃ買えません。
Forest shoemaker


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