うまれてよかった

子ども達へ向けた舞台を創り続け、全国おやこ劇場などを回る「劇団はてな」の新作「うまれてよかった」。
ベテラン俳優二人、若い女優一人の3人芝居。
子どもが生まれ来るまでの不思議と、それを取り巻く喜びや複雑な思いなどを、下の子が生まれる長女を軸として描く。
現実と、ファンタジーを行き来する、子どもの演劇ならではの自由な創り。

私が見たのは、初日を4日後に控えた公開稽古。道具もまだ未完成、芝居も小さなハプニングの重なる荒削りな状態を見るのは、多分演劇ファンは誰でも大好きなのではないかしら。
私も、うきうき。
いや、出演者と、仲間内である演出家は、顔が緊張を表しておりましたが。

それでも、一通り芝居は止まらずに進み、本番さながらだった。

物語のつくりは、もしかしたら複雑で分かりにくいかもしれないし、非常に好みが分かれそうではあるけれど(大人の場合は)幼児から子どもは1時間を越える芝居に集中力を切らすことなく、じっと見ていた。
私は・・・そこで進行する芝居にリンクして、子ども達の見入る様子と、大人がそれを喜んでいる風景が一体になっていることに、まずじーん。
この芝居、絶対大人と子どもが一緒に見ないと!!と強く思った。
それはどんなに大きな子どもでもお年寄りでもいいんだけど、世代を超えて一緒に見る事に、
すごく大きな意味のある芝居なのだ。

理解度と、見ているポイントが全然違うと思うけど、両方にちゃんと寄り添っている。
親子で、上手に言葉では伝え合えない思いが、芝居の形を借りて、両方に語りかける。
子どもはこんな事を感じていたんだ、ということと、お母さんはこうやって私を産んだんだ、ということを、お互いが直接語り合うよりも(その困難さよりも)舞台が直接、なり代わり代弁することの確かな説得力。

もちろん、全然説教臭いわけではないし、命の大切さを全面に押し出しましたというわけでもないのだけれど、じんわり、じんわり、しみてくる。
「ああ、これはギフトなんだ」という感じ。
何かを教えるのでもなく、作り手の主張をするのでもない、ギフトになりうる舞台って本当に少ない。
舞台を見る時に絶対欲しいと思う、興奮と、ほわんと心が柔らかくなる感じ、それらを絶妙なバランスでラッピングして、差し出してくれる。
「そうそう、うまくいえないけどそういう感じなんだよー」という超個人的な体験や思いを、なんであそこまで鮮やかに芝居という具体に出来るのか、本当に不思議に思うチームだなあ。

ひとつだけ、子どもを演じる時に、私が苦手だなあと思うのは、子どもぶること。
大人が演じている芝居だという事は、幼い子どもも承知の上で見ているのだから、
「子どもになりきろうとする」というよりは、「ちゃんとこの道筋を通りすぎてきたからそれが分かる大人」として、演じてほしいな、と思う。
どんな大人の中にも幼い子どもは生きており、そのままの立ち居振る舞いの中に、きっとお客は永遠の子どもを見ると思うのです。
それを、「子どもらしい芝居」で消してほしくないな、というのがリクエスト。
きっと、演じ続けるうちに、自然にそうなっていくのだとは思いますが。

手をつないで帰ろうか。
って、言いたくなる舞台だったなあ。
って、誰に!?しばらく会っていない母に、自分の内なる子どもに。


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