旅先の出会い

仕事で中国地方に行った夏。
途中泊に岡山を選んだのは、ただの偶然だった。
とにかく長旅で体力を消耗したくない。
しかし、目的地直行ではなく、どこか寄り道をしたい。
その二つの目的を結ぶ最短地点が岡山だっただけのこと。

だいぶ疲れて午後遅めに岡山駅に着き、チェックインして近くの岡山城を見て、
ぶらりと商店街を歩きながら夕ご飯の場所をさがしてたとき、その店は見えた。

おしゃれで近付き難い、でもなんだかちょっぴりワクワクするような店構え。
創業75周年という幕のかかった、そこは眼鏡屋さん。
私は眼鏡屋には中学生の頃からお世話になっているから、その雰囲気って容易に想像がつくのだけれど、そのお店は今まで入った何処とも違っていた。
上質なセレクトショップ。そんな印象。
確かに、他のお店で扱っているのとはだいぶ違う、変わった眼鏡ばかりだった。

何人かのお客さんにまじって、いくつかを試しにかけてみて、
店員らしき上品なおばさまに案内されそうになったけれど、
旅の途中だから買えない旨を話して、
しばらくして出てくる。

ホテルに帰っても、なんだかあの店が忘れられない。
途中泊なだけだから、次いつ来るかわからない。
あー、後悔したくない!と、翌朝仕事へ向かう前にもう一度寄ってみることに。

前の日に接客してくださったおばさまは覚えてくれていて、再訪を驚かれ、
そして出来上がったら郵送も出来るからと、改めて勧めてくれた。
そこから約一時間半、つきっきりのの試着タイム。
「少し癖のあるものを」と私が言ってしまったばかりに、
私がおとなしめなものを手に取ろうものなら、
「他のお店にいくらでもあるようなものはおもしろくないですよ」
「そういうのは今みなさまかけていらっしゃいますねえ」
と容赦ない上品さで断られる(笑)
そして出してくるみたこともない四角い眼鏡や、派手色眼鏡を
おばさまの提案どおり全部試着して、
さんざん悩んで選んだのは、自分ではけして選ばない地味派手もの。

それを今度は若い店主らしい男性がこまかく視力検査をし、調整をしてくれる。
「今の眼鏡では度が出過ぎて疲れるでしょう。あなたの生活のパターンでは
思い切って度を落として、左右の差もあまり矯正しない方がいいのでは?」
と、今までとは真逆の提案をされた。
フィッティングも丁寧にフレームの形を微調整して、しっかり私の顔の形に合わせてくれた。

それを2日後の帰り道に途中下車して受け取った。
なんだか、「出会った」ということと「選んだ」ということと「委ねた」ということが、
非常にいいバランスで成立した買い物。

こうやってものを買いたいなと強く思った。
商品と人に愛があって、ゆずれない自分の考えを持っている人たちの意見を信頼して、
自分の思いも伝えて買う。
それを口コミや情報ではなく、たまたま見つけた場所で、そう出来る。
そのことが、なんだかとても豊かな気持ちにさせてくれた。

こういう場所、たぶんたくさんあるんだ。
素晴らしいものも場所も人も、目に見えない所にたくさんいて、
自分の心を自由に開いておいたら、きっといつでも出会う事ができるんだ。
そんなことを感じた岡山の出会いでした。

お店はこちら、中野屋眼鏡院


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