あなたを忘れません

高校時代の恩師が亡くなり、通夜、葬儀と参加してきた。
知らせを聞いた時、驚きはしたが、不思議なくらい哀しみがわいてこなくて、呆然とした。

高校時代は私には、あまりに眩しくて熱すぎて、正直卒業してからはあまり思い出さないようにしていた気がする。
そのせいか通夜や葬儀の後、みんなで写真を眺めながら思い出話をしたときも、びっくりする程当時の記憶が欠落していた事に驚いた。
そんな所行ったっけ?そんな事あったっけ?と、他の人の話に驚きながら、少しづつ開けられてゆく記憶のふた。
そうか、こんなに大事な記憶達が吹き出してしまうと、自分がむき出しになるようで怖くて、心の奥にしまっていたんだな。
断絶していた記憶を友達がだんだんと埋めてくれて、昔の自分と今の自分が、一本につながってゆく。
久しぶりに、10代の頃のようなわがまま放題、辛口三昧だけど正直な自分に戻っていきながら、ようやく遅れて来た哀しみに襲われた。

私の忘れられない青春時代を、支えた先生だった。
当時は怖くて関わるのはちょっとしんどくて、「血も涙もないのか!」と思った程合理主義で強引な先生だったけれど、ちょっと笑った顔や、不器用に生徒を励ます姿は、本当に優しかった。
ちっとも関心がないふりをしながら、知らないうちに私たちがやりたい事の準備を整えてくれて、私たちはまるで、自分たちの力だけで作り上げたように思い込みながら、先生の手のひらの上で、いろんな企画を実現させた。

そのことが、明らかに舞台の世界へ私を進ませたと思う。
先生が教えた事とはちょっとずれた道だけど…

生きている者は、とにかく生きていくしかない。
生きていくなら、誠実に、悔いなく輝いた方がいい。
そうしないと、戦い抜いて旅立った人に失礼だ。
と心の底から思った。

…先生、酒もタバコもやりすぎだし、あまりにも働き過ぎで、ちょっと生き急いだと思いますよ。
みんなに昔っからそう言われていたのに、ちっとも聞く耳持たなかったあたり、私はちょっと不満です。
でも、遺志を継ぐ生徒がたくさんいますから、ちょっと、のんびりしていてくださいね。
ほんとうに、ありがとうございました。
あなたを、忘れません。


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