2021年1月21日
2021年2月25日
500字書評「仕事の話」
普段、本は電車の中で読む。ひとやすみのカフェで読むこともある。東京に行って帰ってくるあいだに一冊読み終えるのがいつものペース。
だが、都内に出ることも電車に乗ることも控える今、私はこの本を家で読んだ。布団の中やお風呂の中で。部屋の中で陽が落ちて薄暗くなるのにも気付かずに読んだ。何日もかけて、ゆっくり読んだ。
「仕事っていうのはさ…」と仕事人たちがぼそぼそ語るつぶやきを、すぐ隣で聞かせてもらっているような本だ。うなずいて感動して、時々反発したくもなる。全く知らない分野の仕事の話も目を開かせてくれる。語り手は、年齢も職業も性格もみな違うのに、どこか共通項がある。それは、普段語られない言葉を多く集めたからこそ浮かび上がって見えてきたのだと思う。
聞き書きの締めくくりに、唯一、東日本大震災直後に語られた「追記」がある。そこに32人が語ってきたことが詰まっている気がした。困難に出会った時の決断のしかた、その時に大事にするもの。仕事に対するある種の過剰さとしつこさ。自分の力ではない、なにものかへの信頼。
今困難な時代を生きる私たちも、なんどでもやり直して生きればよいのだと、背中を押された。