ここでもまた、格差と多様性の話。

ミュージック・クリエイターズ・エージェントが毎月一度、音楽関係者に話を聞く「みんなの談話室」シリーズ12回目。

先日読んだ「なぜアーティストは生きづらいのか」の著者手島将彦さんがゲスト。

答えを教えてもらう場ではなく、音楽をとりまく世界がどんな風に変わっているのかいないのか、様々な現場に立つ人の生の声を聴くシリーズが面白くて、ここ数回参加している。

今の私が、最も聴きたかった話だった!
どうやったら売れるかという方法論じゃなくて、あなたはどうしたいの?
社会はどうあったらいいのだろう?
という根本的な問いを共有できる時間だった。

手島さん曰く、音楽が売れなくなったというけれど、
その打開策を探してみんながシステムの話ばかりする。
商品開発の話をしないで、営業の方法ばかり話している感じ。
音楽を発信するためのプラットフォームなんて何でもいいから、作品、アートについての話をしよう。
という言葉には、「うんうんうんうん!」と私首を振りすぎた(笑)

もうひとつ、専門学校で教えていて、ここ数年で「音楽をやるための経済格差が大きくなっている」ということも印象的。
音楽は高校の部活まで、と決めて「引退宣言」して、その後音楽を聴かなくなってしまう子も多いのだとか。
そして、格差の構造に自分たちが気付いていないという。
そうすると、当然よいリスナーさえも育たない訳で。

音楽が売れないのは、音楽の社会的価値が低いから。
音楽がかけがえのないものになっていない。
でもそれは、逆にアーティストが社会的な存在であるということを捨ててしまったからでもあるし、アーティストからの哲学、思想の発信がなくなったことにも原因がある。

社会が、特に若い人が分かりやすくて共感しやすいものだけを選び、よくわからないものを拒否、排除する。
そのことがアーティストの、作品の、多様性を排除していく。

手島さんの論点は分かりやすく、そして表面的に見えることの奥を突いている。

参加者の一人が言っていた。
SNSでも、「これを言って大丈夫か、偏ってると思われないか」と自分も無難な発信をして、社会全体が偏った物を排除して、もやっとした感じに覆われている。
共感が全てみたいな風潮に、自分がのみこまれていると。

そうなんだよね、別に政治だけのせいじゃなくて、それが社会に蔓延するしんどさの原因だし、アートがつまらなくなってる原因の一つだと思う。

本にもあるように、生きづらいアーティストの中には、発達障害やアスペルガーという特徴を持つ人も多いけれど、それは本来人間社会全体にあることで、一人一人が違ってあたりまえのこと。
そういう人たちがいて当たり前、彼らも力を発揮出来る社会が豊かな社会だという風にしていきたいし、
逆に「アーティストの力は、既存の枠や境界を超えられることにある」と手島さんはいう。

そのアーティストが萎縮して、哲学を失い、無難で売れそうな音楽だけやっていたら、
そりゃ閉塞社会に拍車、かかります。

社会情勢と、業界の失敗と、アーティスト自身の問題が複雑に絡み合う「音楽が売れない」問題。
でも『音楽』は、他の言葉にもいくつも置き換わって同じ事が言えるのであって、
ひとつの世界で起こっていることは、多分他の世界も相似形の構造。
感性で突き進む部分とともに、わたしはその構造が知りたいし、そこに全然違う角度からメスを入れたい。

熱く、冷静に社会全体を捉えつつ、ちゃんと現場にいる人に出会うと、それが出来る気がする。

気付いている、動いている人があちこちに点在している。
その点が、必ず線を結ぶときがくるのだ。
きっとアンビリーバボーなアーティストの「境界越え」の力を借りて。

なんだか勇気のでる談話室でした。