知識が教養にかわるとき

しゃべれどもしゃべれども (新潮文庫)
佐藤 多佳子 / / 新潮社

落語家が主人公の小説だが、なんとも妙に臨場感がある。
きっとこの人はとても丁寧に取材を重ねているのだろうなあと思う。通り一遍の知識では書けないリアリティ(もちろん本業の人がみたら違うのでしょうが)。

小説の題材に、一般的ではない材料が用いられている事は多々あるけれど、それが小説に本当に必要不可欠で親密に馴染んでいるものは、実はけっこう少ないと思う。
知識が全面に出て嫌みというか上品でないものも多い。
作品を作るためにきちんと裏付けされた知識は絶対に大事だけれど、それが作品から浮かずに、しっかり血肉になるには、どんな過程が必要なのだろうか。
と思わせる、しっかりと知識が教養に変わった作品だと思う。

だからど素人が読んでても、物語の面白さに加え、特殊な世界への好奇心がむくむくと湧く。
作品はとてもオーソドックスな運びだし、登場人物も、小説ならではのデフォルメがあって面白い。
ちゃんとリアリティだけを追求した作品も好きだけれど、文字の世界は何でもありなのだから、逆にちょっとバランスが崩れたエンターテイメントでもいいのよね、と私なんかは好みです。
読みやすいので、映画化されるのも納得。
でも最近、小説はちょっと面白いとすぐ映画にされちゃうからなあ。それは見る気にはなりませんが・・・


コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。