神の島から戻って

那覇での最終日。お昼すぎの飛行機まで、壷屋を歩く。
やちむんの博物館も、想像以上にちゃんと充実していて素敵。
買い物も、直感が冴えてきたからか、「この店に入ろう」と思って入ったとたんに好きなコーヒーカップに出会えたりして、よしよし思惑通り。
旅というのは、勘の冴えた状態から始まるのだよなあ、きっと。これで帰るなんて実にもったいない。

たらたらと、残りは無目的に歩く。
那覇ではほとんどのサラリーマンはそれぞれ似合う色合いのかりゆしウェア。
適度にみんな汗臭くて、食べ物の匂いとぬるい風がまざって、急ぐ気力を奪っていく、東京とはぜんぜん違う空気。
この空気をいっぱい吸っておかなくちゃと思う。
都内に戻ったらあっという間に忘れてしまう。

羽田に降りたとたん、目の前がまっくろいスーツだらけになって、憂鬱になった。
ここではみんな急ぎ足。ヘアクリームや香水の匂いをぷんぷんさせて。
それが洗練だとはちっとも思えない、居心地の悪さ。でも、そこが私の帰ってくる場所。
ちっとも魅力的な場所には思えないけれど、今は私が選んでいる場所。
あ〜あ。

帰って来たその日は、めずらしくじんましんが出たけど、それは翌日すぐに引っ込み、旅疲れの熱も出たけど、それもすぐにおさまり、あっというまに、このスピード感の中へ戻った。
沖縄の旅はどんどん過去になり、結局都内をたかたか歩き、携帯電話を離さず(向こうでは存在すら忘れたのに)、時間に追われる。

それでも、あのたった数日間で、得たものがある。
いつでもしんとした静かな場所を心の中に描けるようになったのだ。
どんなにざわざわした人込みのなかでも、あの「林の中にひとりぼっち」の自分を見つける事ができる。あそこに戻ればいい、と心の中で思う事ができる。
たねがひとつぶ、胸に落ちた感じだ。
どこであれ、あとはそれを育てればいいだけなのだと思う。
次に行く時に、育った苗をまた島に植え、新しいたねをもらい・・・・

ふるさとって、そういうことだ。


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